水島くん、好きな人はいますか。
「お母さんが病院に運ばれたそうだ」
「――……、はい?」
頓狂な、自分の声。
脳内再生される、先生の言葉。
オカアサンガビョウインニハコバレタ。
ぐらりと後ろへ倒れかけた頭に足を踏ん張り、目の前に立つ先生を凝視する。
「先ほど職場の方から連絡があった。織笠の家はお母さんとふたりだろう。病院まで車を出すから、支度しなさい」
とん、と肩を押され、おぼつかない1歩を踏み出す。けれどそれ以上、前に進めなかった。
……また、だ。
体が動かない。息苦しい。どくどくと心臓が早鐘を打ち、じわりと手のひらに汗が滲む。
「織笠、早くしなさい」
わかってる。わかってるけど。頭も、体も、ちぐはぐで。
「織笠、大丈夫だから。車で30分もかからない」
そんな言葉をかけられても、動けないよ。
仕方ないじゃない。お母さんは、わたしがいなくたって平気そうで。わたしに、どこかへ行ってほしくて……。
わたしはまた、あんな風に間違えたくない。
「織笠!」
「~っすぐ準備します!」
そうだよ。わたしはもう、間違えたくないんだ。
手放したくないものを掴むくらいの力は持ってみせるって、あのとき決めた。だから振り払われてもいいんだ。
お母さんがなんと言おうと、どう思おうと、考えることだけは諦めないって決めたもの。