水島くん、好きな人はいますか。
「あの人がお見舞いに来るなら、帰るから。そう言ってほしい」
できれば聞かせてほしいけど、お母さんの恋愛に首を突っ込むつもりも、余裕もない。
「わたし今、お母さんに迷惑かけてる?」
震えかけた声が、わたしを心細くさせる。
「心配もしないほうがいい? わたしがいないほうが、ゆっくり休める?」
聞こえているかな。こんな弱々しい声を、聞いてはくれないかな。なにを言っても、訊いても、応えたくない?
「わたしは、お母さんの……っなんの役にも立たない?」
ぐっと手首を引っ張られ、お母さんと顔を見合わせる。
「――……なにその顔」
ひどい顔、してる?
鼻の奥がツンとして、目の縁がじんわりと熱を帯びる。
お母さんに迷惑をかけたくはない。一生懸命働くお母さんの邪魔になるようなことは、もっとしたくない。
お母さんが夜も働く日があるのは、わたしがいるからだって知ってる。
だから家事でもなんでも、与えられたことはちゃんとこなすよ。言ってくれればその通りにするよ。
だけどわたしね、お母さんに聞いてほしいなって思うときがあるんだ。ご飯は食べるのか食べないのか、それだけじゃなくて。ひと言ふた言交わすだけの挨拶や勉強以外のことも、話してみたい。
ただ、その日1日にあったことを聞いてほしい。
家に帰っても話す人がいないのは、寂しい。あの家はわたしひとりじゃ、広すぎる。