水島くん、好きな人はいますか。


もう15歳なのに、笑っちゃうよね。


今日も帰ってこないのかなって。お母さんの帰りを待ち侘びるわたしは、子供すぎる? 帰ってこなくてラッキーって思うわたしのほうが、お母さんは助かるかな?


だけどこれが、わたしだから。お母さんがいないと寂しいって思う気持ちは、本物だから。


「無茶はしないで。早く、元気になって……」


それだけでいい。

お母さんが元気であれば、わがままなんて言わない。


「わたしには……お母さんしかいないから」


掴まれたままの右手首から伝わるぬくもりに涙が出る。


爪先まできれいな手。メイクも髪も服装も、お母さんはいつだってきれいにしてる。15歳の娘を持つ母親には見えないのかもしれない。


だけどわたしのお母さんは、この人しかいない。


お母さんがいなくなったら、わたし、どうやって生きていけばいいの。


「ちょっと、恥ずかしいから泣かないでよ……」


辺りを気にするお母さんはわたしに視線を戻す。


「万代。あたし、ただの過労、」

「過労死って本当にあるんだからっ!」

「ちょっ……なに言ってんの……!」


左手で涙を拭えば、お母さんは「すいません、この子大袈裟で」と同室の患者さんに声をかけていた。


大袈裟なんかじゃない。可能性の話をしてるんだ。

わたしは本気で、無茶はしてほしくないって思ってるのに――…。
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