水島くん、好きな人はいますか。
お母さんは待合ホールのソファーに座るところだった。
……また帰れって言われるかと思ったんだけどな。
スクールバックの紐をぎゅっと握り締め、隣へ腰掛ける。
「アンタって結構、頑固よね」
「えっ……。そ、そうかな」
「頼んでないことも、失敗しそうなことも、やると決めたらやるじゃない。誰に似たんだろうって思ってたけど、たぶんあたしよね」
その通りだなんて言えず、黙ってしまう。
「あのさ、瞬くんに言われたんだよね。『おばさんのこと嫌いじゃないし、女手ひとつで万代を育ててすごいと思うけど、子供が親に頼れない上に気を遣わせてばっかの関係って、友達以下だと思う』って」
「な……え? なにそれ……こ、この前って、」
「あたしが彼氏と別れてアンタに当たり散らした次の日の夕方。エレベーターでばったり会って、目ぇ合わせたまま舌打ちされた」
「……」
ちょっと待っていきなり情報量が多すぎる。
お母さん彼氏と別れたの? だから機嫌が悪かったの? それでどうして瞬が出てきたんだっけ? 舌打ちって……。
「瞬くんってすごいわ。『娘が家政婦になってくれんなら雇わなくて済みますから便利でしょうね』って言い残して去ったときは正直、このガキって思ったけど、言い返す気にもなれなかった」
すごくない。怖いもの知らずにもほどがある。