水島くん、好きな人はいますか。
「あの……家政婦だなんて思ったことないよ。お母さん仕事してるんだし、それくらい……」
「うん、でも。ふと瞬くんの家のことも考えちゃったらさ、反論なんかできないわ。自分と同じ思いをアンタにさせたくないとか、思ってんのかしらね」
「……どうかな」
瞬は必ず、そう思ってる。だけど口では肯定しちゃいけない気がした。
再び訪れた沈黙はやがて、お母さんが破る。
「邪魔だとか、思ってないから」
「……」
「あのときアンタに当たり散らしてさ。謝んなきゃって思う反面、ふつうにしてればなにもなかったことにできるんじゃないかと思ってた。あたしと違って、アンタはバカみたいに人がいいから」
そんなことないよ、と返そうとしたわたしを遮ったのは、少し前に火傷を負った手の甲に重ねられた、お母さんの手のひらだった。
まだうっすら火傷のあとが残るそこを撫でられる。
……気付いていないんだとばかり、思っていた。
「ひどいこと言った。……ごめん」
「……また、言うかもしれない?」
「あー……うん。でも、もしまた言っちゃったら、そのときは言い返してきなよ。さっきみたいに」
ぺちぺちと軽く手の甲を叩いてくるお母さんは苦笑を浮かべている。きっとわたしの瞳に、うっすら涙が滲んでいるせいだと思った。
「こんな母親で悪いんだけどさ。片親ってことがアンタのマイナスにだけはならないようにしたいんだ」
「……うん」