水島くん、好きな人はいますか。
「だからアンタも。我慢したり遠慮することないからね」
頷くと、お母さんは微笑んでわたしを抱き寄せ、頭を撫でてくれた。
昔から変わらない香水の匂いが、ずっと小さいころを思い起こさせる。お父さんが出て行ってからしばらく、よくこうしてもらうことが多かった気がする。
そのときはただ、ぎゅってされるのが嬉しくて。頭を撫でてもらえるのが、幸せだった。
「あたしは万代が元気でいれば、充分だから」
うん。わたしも、お母さんが元気でいてくれればいい。
それと、わたしが今もお母さんの支えになれていたら、すごく嬉しく思うよ。
「――さて。もう遅いし、いい加減帰りな」
「お母さん、明日は仕事休むんだよね?」
「ああ、上司命令だからね。1日中家にいるかな」
「……明日だけ、わたしも学校休んでいい?」
「は? アンタ無遅刻で欠席もこの前の風邪だけでしょ。選抜って内申も考慮されるって――」
眉間にしわを寄せていたお母さんはなにか言いかけ、小さく息を吐いた。
「好きにすれば」
あれ……もしかして、届いた?
明日はお母さんと一緒にいたい、って。
お母さんは居心地が悪そうに顔をしかめていたけれど、少し照れくさそうにしていた。と、思う。
えへへ、と笑えば「なによ。気持ち悪い」なんて言われてしまった。
気のせいじゃないと、いいな。