水島くん、好きな人はいますか。


病室に戻るお母さんがバッグを漁っていたのは、5千円札を手渡すためだった。


「悪いけど、適当に食べて。そろそろファイルとかノートも必要でしょ。余ったお金で買いな」


それでも5千円は多すぎるんだけど……。


「ありがとう」


受け取ったわたしは、ふたり分の食材で埋まる冷蔵庫を想像しながら、財布にお金をしまった。


「にしても、すごい違和感。アンタくらいの年頃って、親に干渉されたくないんだと思ってた」

「……勉強はしろって言うのに」

「口出せるのが勉強くらいなのよ。料理も掃除も洗濯もやってくれるし、小遣い欲しいって言ったこともないでしょ。あたしが中高生のころなんて、もろ反抗期だったのに」


大学生にもなっていきなり反抗期がきたら嫌だわー。と、未来を空想するお母さんに思わず笑ってしまう。


「それはないと思――…」


途切れた声にお母さんは視線をよこし、すぐにわたしが見つめる先へ目を凝らした。


「……ずっと気になってたんだけど、アンタって瞬くんとどうなってんの? 付き合ってんの?」

「えっ!? ないよ、断じてそんな空気は持ってないっ!」

「断じてって。ま、いいけど」


お母さんはとん、と指先で背中を押してくる。


「お迎えも来たし、安心だわ。よろしく言っといて」

「うん……明日迎えに来るね」

「来なくていいって言っても来るんでしょ。わかったよ。ほら、待ってんだから早く行きな」


お母さんが数メートル先にいる瞬を顎で差す。
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