水島くん、好きな人はいますか。
頭を下げた瞬にお母さんはひらりと手を振り、病室へ戻っていった。
ゆっくりと自分の足元へ視線を落とす。
大丈夫。きっともう、大丈夫。
つまずくことや、立ち止まることがあっても。もう一度、歩き出すことができる。顔を上げれば、優しい幼なじみがわたしを見守っていてくれる。待っていてくれる。
――瞬。わたし、諦めなかったよ。
体の側面を壁に寄りかからせ、腕を組む瞬の前で歩みを止める。瞬はじっとわたしの目を見つめてくる。
「お前、泣いたの?」
「少しだけ」
「おばさんの具合どう」
「過労だけど、大丈夫だって。明日の午前中には退院する、から。明日は学校休むんだ」
「万代のくせに堂々とサボリ宣言かよ」
「だってわたし、家政婦じゃなくて娘だもん」
「……、ふぅん」
そっけなく相槌を打っても、瞬は踵を返す間際に、ぐしゃぐしゃと頭を撫でてきた。
「さすが万代」
言ってくれると思った。
ごく稀に、瞬は自信を与える言葉をくれるね。それはとても小さいけれど、もう、一度だって失くしたりしない。
「瞬、ありがとう」
直接的な言葉はなくても、わたしを気遣ってくれて。夜に街をふらついたわたしを探してくれて。憎まれ役になってでもお母さんに声をかけてくれて。
こうしてわたしを、迎えに来てくれて。
「ありがとう瞬」
瞬がいたから、くじけなかった。いてくれるだけで、心強かった。