水島くん、好きな人はいますか。
「……聞こえてない?」
1階に降り、前を歩く瞬の背中に問いかけると「聞こえてんよ」と返ってくる。
「礼より物が欲しいけどな。腹減ってんだよ、俺は」
謙遜しない上に報酬まで求めてくるのが瞬らしい。
「ご飯なら、瞬が好きなカップ麺がうちにあるよ」
「ふざけんな。お前んちでもカップ麺食えってか」
「いつでも食べられるようにって、勝手に置いてったのは瞬だよね……?」
「肉食いてえ、肉。どうせおばさんに金もらったんだろ」
「も、もらったけど! お母さんのために遣うんだもん! 栄養をちゃんと考えて、」
「じゃあスーパー直行な。肉買え、肉。基礎食品群第2群、3大栄養素のたんぱく質だぞ。肉ナメんな」
瞬なんてぺらぺらの加工ハムでもかじってればいいのに。
想像したら思いの外おかしくて、吹き出してしまった。
「なに笑ってんだよ。気持ちわりーな」
振り返った瞬の口は悪くとも、かすかに笑みをたたえていることに、わたしが気付かないわけがない。
「瞬はがっつり食べてるほうが似合うなあって思って」
口元をゆるめて瞬を追い越す。自動ドアをくぐれば、髪が冷たさを纏う風になびく。
もうすっかり冬だなあ。
夜空に煌めく光を見つけられないまま、振り返る。
「ねえ瞬。今度みんなでプラネタリウム行こうよ」
「ううわ。星とか興味ねえ」
「二度と誘わないから安心して」
先に歩き出すと瞬が背後からいつもの暴言を吐いてきたけれど、聞き流しておいた。
ほとんどの木々が葉を落とした12月初旬。
わたしは春より早く、自分の中に芽生えを感じていた。
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