水島くん、好きな人はいますか。
ひょいと顔を覗き込んできた水島くんに『失礼な』と言いたくても、整った顔が近くて無理だった。
まずい。今ちょっと顔赤いかも……。
誤魔化すために水島くんを睨めば、声を出して笑われる。
「冗談じゃろー? 怒んなやっ」
怒ったと思われたのなら、助かるけれど。
自分のクラスじゃないからかな。水島くんの雰囲気がいつもと違って見えて、どぎまぎしてしまう。
「E組が社会のプリント終わっちょってよかったけん」
机に腰掛けた水島くんは、「ね」と返事をしたハカセに笑顔を向けた。
「全員課題忘れたってこと? ふたりは?」
「僕はほら、尋常じゃない速さで解く京が運よく隣にいたからね。授業中に終わったよ」
「あっちは俺とハカセのプリントを写しちょって、瞬とみくるがいるほうは万代のを写し中ってこと」
「なるほど……でもどうして全員忘れたの?」
「係が配るの忘れてたんだよ。1学期も同じこと起こって、そのときは正直に理由を言ったんだけど、救済処置がプリントを倍にされることなんだよね」
「1枚ならまだしも、3枚の倍で6枚になるとか嫌じゃろ?」
「それ救済措置じゃなくて精神的な拷問だと思う」
哄笑するふたりから必死なA組の人たちを見遣る。
課題は指定日時までに提出しなくちゃ、内申に響くもんね。
自由な校風の代償と言ってもいいくらい、うちの学院は提出物が多い上に、提出日に厳しいのが特徴だったりする。
事情を知っていたら、りっちゃんのも貸りてきたのに。