水島くん、好きな人はいますか。


すると、「ありがとねーっ」とか「助かった!」とわたしのプリントを写していた人たちも声をかけてくれた。


逐一反応して廊下に出るまで時間がかかってしまったけれど、役に立てたと思えば嬉しくなった。


「あれって瞬の幼なじみだよね。なんか、」

「うん、かわいくなった?」


A組を出てすぐ聞こえてしまった会話に、思わず振り返りそうになる。


か……えっ!? そ、そんなことはじめて言われた……!!


みくるちゃんはたまに言ってくれるけど、それは友達だからこその世辞というか。瞬や水島くんの親衛隊と言ってもいいA組の女子に言われるなんて。


ずんずん歩きながら、悩みの癖っ毛に手櫛を入れる。


「あ、万代。どこ行ってた……って、なんか顔赤いよ?」


教室に戻ると、りっちゃんが首をひねる。


「わたしって目障りじゃないのかな……!」

「急にどうした」


冷静なりっちゃんはわたしが抱くファイルに目をやり、「ああ、」とひとり納得したような声で言う。


「そんなの一部の人だけでしょ。大半は気にしてないよ」

「……そうなんだ」


わたしが気にし過ぎだったのかな。


「で? A組にお邪魔して誰となにがあったのさ。幼なじみくんと愉快な仲間たちと話してきたんでしょ~」


楽しげに肘で小突いてくるりっちゃんの質問に、導き出せる答えはなかった。



だけど……うん。
ほんの少しだけ、自分は変われたような気がする。
< 153 / 391 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop