水島くん、好きな人はいますか。
すると、「ありがとねーっ」とか「助かった!」とわたしのプリントを写していた人たちも声をかけてくれた。
逐一反応して廊下に出るまで時間がかかってしまったけれど、役に立てたと思えば嬉しくなった。
「あれって瞬の幼なじみだよね。なんか、」
「うん、かわいくなった?」
A組を出てすぐ聞こえてしまった会話に、思わず振り返りそうになる。
か……えっ!? そ、そんなことはじめて言われた……!!
みくるちゃんはたまに言ってくれるけど、それは友達だからこその世辞というか。瞬や水島くんの親衛隊と言ってもいいA組の女子に言われるなんて。
ずんずん歩きながら、悩みの癖っ毛に手櫛を入れる。
「あ、万代。どこ行ってた……って、なんか顔赤いよ?」
教室に戻ると、りっちゃんが首をひねる。
「わたしって目障りじゃないのかな……!」
「急にどうした」
冷静なりっちゃんはわたしが抱くファイルに目をやり、「ああ、」とひとり納得したような声で言う。
「そんなの一部の人だけでしょ。大半は気にしてないよ」
「……そうなんだ」
わたしが気にし過ぎだったのかな。
「で? A組にお邪魔して誰となにがあったのさ。幼なじみくんと愉快な仲間たちと話してきたんでしょ~」
楽しげに肘で小突いてくるりっちゃんの質問に、導き出せる答えはなかった。
だけど……うん。
ほんの少しだけ、自分は変われたような気がする。