水島くん、好きな人はいますか。


「万ー代っ」


清掃時間が終わるころ、クリーナーにかけたばかりの黒板消しを落としそうになった。


水島くん!? が、どうしてE組に……!


「これ! プリントッ」

「え!? は、はいっ」


黒板消しを置いて駆け寄る。教壇を踏み外して危うく転ぶところだった。


水島くんは「大丈夫?」と笑いを噛み殺しながら掲げていたプリントを差し出してくる。


「大丈夫です……。あれ? わたしのプリント」

「瞬のやつ回収し忘れちょったけん」


そういうことか。確認しなかったわたしも悪いけど、びっくりしちゃったじゃん。瞬のバカ。


受け取ったプリントに視線を落としていると、水島くんが吹き出す。思い出し笑いだ。


「びっくりしたんです! 水島くんがうちのクラスに来るなんて初めてだからっ」

「わかっちょーけど、予想以上の反応で」


水島くんはドア枠へ寄りかかり、くっくっと含み笑いするから、口を尖らせた。


まさかわたしの反応見たさに届けに来たんじゃ……。


水島くんって実はいじめっ子の素質があると思う。それが本当にあくどくならないのは、水島くんらしさというものが透き通っているからだと、わたしは思うんだけれど。


「水島くんは、元気だね」

「元気元気。なんかや急に」


うん。今日の水島くんは、くもってない。ゆるやかに笑みを浮かべられると、いつも通りだって安心する。


「……、うん?」


水島くんがわたしを見つめたまま微笑みを崩さないから、なにも言われてないのに訊き返してしまった。


「なんでもなか」


じゃあ見つめないでほしい……。
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