水島くん、好きな人はいますか。


見返し続ける度胸がなくて目を泳がすと、水島くんはドア枠に寄りかかるのをやめ、にやりと笑った。


「瞬には礼を倍にしろって言っとくけん、楽しみにしちょって」

「え!? そんなこと言わなくていいよっ」


水島くんが届けに来たなんて知れたら、瞬がなにをしでかすかわからない!


焦りも空しく、水島くんは鮮やかな笑声だけ響かせ、E組をあとにする。


……屈託ない笑顔って反則だと思う。本気で止める気も怒る気にもなれないんだから、水島くんって得だ。


本人は自覚してるのか、してないのか。教室に戻るまで何人の女子が水島くんに熱い視線を向けただろう。


でも気付いていたところで告白されない限りは、笑顔でひらりひらりとかわしそうな気が、しないでもない。



席に座るために踵を返す、と。


「ぎゃあっ!」


いつからいたのか、にやにやと頬をゆるませたりっちゃんが真後ろに立っていた。


「りっちゃ……び……びっくりするからやめてよー!」

「おバカ! 転校生くんをあんな間近で見る機会を逃してたまるか! ほんっときれいな顔してる! 目の保養!」


激しく波打つ心臓に胸を抑えるわたしは、りっちゃんの言葉に同意して集まってきたクラスメイトたちの熱狂ぶりを見ていることしかできない。


あの性格で頭脳明晰、眉目秀麗とくれば、女子が騒ぐのは必然かも。なんて、みんなの会話を他人行儀で聞いている自分がいる。


「あ~っ。京くんにはずっと彼女なしでいてほしいっ!」


働かせていた頭にするりと流れ込んできたクラスメイトの願望に、少しだけ戸惑った。

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