水島くん、好きな人はいますか。
わっ――とホームから人が押し寄せ、喧騒が戻ってくる。改札口から出てくる人たちをぼんやり眺めていると、電車が発車していくのが見えた。
「俺は万代に痛い目を見せるために、自分でも調べてんだよ。だからこうしてハカセにも教えてやれるっつー話」
「ハカセ、万代じゃなくて瞬にかけなっ」
「瞬を練習台にできるなんて、贅沢だなあ」
まだプロレス技の話をしている3人に、今の出来事は本当に数秒の出来事だったのだと実感する。
隣に、ホームを見たまま動かない水島くんがいる。
どくん、どくん。激しく脈打つ鼓動に、目が眩みそうになる。まるでわたしの周りだけ、空気が緊迫を纏っているみたい。
誰かが言い争っていたように聞こえたのは、こっちを見ていた男女3人の声だったのかな。
再び微かに聞こえた声の正体はきっと……あの子。
思い返せば思い返すほど、ぎゅう、と痛いくらいに胸が締め付けられる。
どうしてわたし、こんなに動揺してるの。
知らない子だよ? 年だってそんなに変わらないように見えたけど、同じ学院の子かもしれないじゃない。
そう思っても、的外れだとわかっていた。
わたしの耳が拾ったのは――“京”と呼ぶ女の子の声。
いつだって会える距離にいるのなら、あんな顔はしない。叫ぶように呼んだりはしない。
水島くんは振り返ってすぐ、間違いなく呟いた。
『――アヤ……?』
今、確かなことはひとつだけ。
あの子は水島くんと離れ離れになってしまった、未来のわたしだ。
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