水島くん、好きな人はいますか。
「そぎゃんこと、はじめて言われた」
「……そう思ってる人、他にもいるんじゃない?」
お兄さん、とか。
「あー……いるかも」
目を伏せた水島くんの口元がゆるむ。彼を押し潰してしまいそうな、見えないなにかも、一緒に。
ふーっと長く息を吐いた水島くんのそれに、はびこっていた胸のわだかまりも含まれていればいい。
「ありがとう、万代」
「どういたしまして?」
「ははっ。なんで疑問形かや」
だってこんなものでよかったのか、水島くんが抱えるものがなんなのか、わからないんだもん。
あの女の子が元気を失くす要因になったのなら、こんな時期に開けられたピアスには、なにか意味があるのかな。
「帰っか。日が暮れないうちに」
「うん……そうだね」
立ち上がった水島くんの背中に、問いかけたいことがいくつもある。でも元気になってくれたのなら、それだけで。
「――えっ!? 待っ、危ないよっ」
へりに足をかけた水島くんはわずかに振り返り、微笑んだ。
嘘でしょう。思ったときには水島くんは3メートル近くある塔屋から飛び降りた。
慌てて下を覗くと、難なく着地していた水島くんが振り仰ぎ、
「余裕ーっ!」
とピースを向けてくる。
「……無茶しないでよ」
わたしのつぶやきは届かない。
気が抜けるほど無邪気な笑顔にこの日はどうしてか、泣きたくなった。