水島くん、好きな人はいますか。
「蹴られてもいいってこと……? 嫌だよ、そんなの」
「そりゃそうだよなあ?」
頭上から降りかかった低い声と重苦しい空気に息を呑めば、いち早くりっちゃんが振り返る。
「やあやあ。幼なじみくんじゃないか。いないと思ってたら、まーた先生に呼び出し食らってたようで」
「またってなんだよ面食い。呼び出されてねえよ」
まずい……見当たらないからって気を抜いていた。
わたしの背後が今、日本でいちばんデンジャラス。
「俺が呼び出し食らってたとか、思ってなかったよな?」
ぽん、と肩へ置かれた手に血の気が引く。
「俺がいないときを狙って男漁りなんて、まさかなあ?」
「痛い痛い痛いっ!」
爪! 爪っていうか指先が肩にめり込んでるから!
ごつごつした大きな手を振り払って見向けば案の定、瞬は見下すような目付きをしていた。
「しゅ、瞬がいないなって、見てただけだもん」
「俺がいねえことなんかひと目見てわかんだろうが。学ランにパーカー着てんのは、A組で俺だけだ」
「……べつに瞬を探していたわけじゃなくて、ただ、どうしていないのかなって、」
「あ? じゃあなんだ。どうして俺がいねえのか、俺をダシに話しかけようとでも思ってたってか?」
ああ言えばこう言うなあ……もう。