水島くん、好きな人はいますか。

お守りをバッグの中にしまい、ふと感じた水島くんの視線に目を留める。


けれど水島くんはなにか言ってくる様子もなく、わたしはぎこちない笑顔を浮かべながら首を傾げた。


い、糸くずでもついてるかな……。


気になって髪に手櫛を通す、と。

目を伏せたわたしの下まぶたに、知らないぬくもり。


「これ、くまじゃろ」


普段自分でしか触ることのない場所が、おもむろに撫でられた。それが水島くんの親指であると頭ではわかっても、身じろぎするどころか声すら出ない。


「最近、息抜きしちょらんかや?」


心臓は素直すぎる。


水島くんの手が離れてなお、鼓動は激しく打ち続ける。


まるで胸の奥に穴があって、そこに生き物が住んでいるみたい。もしこれが感情という名であったら。ひとりに対してのみ引き起こされるものであったら。


――無理。こんなの、飼い慣らせない。



気付けばわたしは無意識のうちになにかを口走ったらしく、一度目を見張った水島くんは、おかしそうに笑っていた。


笑って、笑い続けて。

わたしの視線に気付くときょとんとして。

にやりとなにか思い付いて。

わたしの両頬をつまんで引っ張るから。また、わたしの心を乱そうとするから。思い切り頬を膨らませてみると、ひとりで吹き出して。


水島くんは無邪気に笑う。
おかしそうに、楽しそうに、笑ってくれる。


だからわたしも思わず、手を伸ばしてしまったんだ。
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