水島くん、好きな人はいますか。
「よ、よくわかんないよね。自分でも不思議なんだけど、割と落ち着いてるって言いたくて……」
「わかるよ」
水島くんはわたしに成績表を返し、まぶしそうに目を細める。
「わかるけん。焦る気持ちも、焦っちょると周りが見えんくなる感じも」
「……水島くんもそういうこと、ある?」
「あるある。超ある」なんて、水島くんはふざけたように言う。そして目を伏せ、口元をゆるませた。
「焦ってばっかでかっこわるいけん、俺」
冷たく乾いた風が、折り畳んだ成績表をかさかさと揺らす。
わたしは開きかけた唇を結び、なびくマフラーを握るふりをして胸を押さえる。
「瞬はかっこよかね」
そのひと言に、たくさんの感情が凝縮されているように思えた。羨望や、焦燥や、哀愁や、憧憬を帯びているようなそれは、なにを中心に生まれてくるんだろう。
それを抱いて、どこへ行きたいんだろう。
「水島くんは、なにを目指しているんですか」
視線を落としている水島くんの黒髪が風に遊ばれるたび、ふたつのピアスが見え隠れする。
見慣れたはずなのに、そこにいるだけできれいな男の子の耳に付けられた装飾物はどこか、よそよそしげに存在していた。
だからかもしれない。水島くんがそっとやさしくピアスに触れて、胸が潰れるようだった。
「――医者」
……勘違いじゃなかったんだ。