水島くん、好きな人はいますか。
「まあお前にそんな度胸はねえだろうけどな」
話しかけようなんて少しも思っていなかったのに、瞬は片方の口角をつり上げて嗤笑する。
そんなにわたしを自分の友達に近付けたくないなら、はっきり言えばいいのに。
わたしの存在が恥ずかしい、って。
「――イッテ!」
持っていた運動靴が入った袋を、瞬の脇腹に叩きつけた。
「行こうりっちゃん」
「てめえ万代!! 反抗期は終了しろって言っただろっ!」
うるさい、うるさい。勝手に決めないでよ。
背を向けても投げかけられた怒号に耳をふさぎたくなる、のに。
「万代っ!」
風をも切って一直線に響いてくる声を無視できたなら、わたしと瞬の関係はとっくの昔に終わっている。
絶対に振り返ってやるもんか。
そう思ったときにはいつも振り返っている。
「今日、ぜってーパシッてやるから、覚悟しとけよ」
どうしてそんな満足そうに笑っていられるの。
わたしを思い通りにできて楽しいなんて感じるのは、瞬くらいだよ。
返事をせずに立ち去る間際、中庭にいる水島くんたちを視界に入れなければよかった。予想として頭にだけとどめておけばよかった。
瞬の友達からすればわたしの存在はとっても不可解で、それを顔に出してしまうのは仕方のないことなんだろうけど。