水島くん、好きな人はいますか。
「ねえ、連絡先教えて。嫌だろうから、入学後に誰かから聞き出すけど」
意味がわからな過ぎて怖い!
「それからアンタもう要らない」
「……、」
「あの辺の奴ら、外部生だろ」
職員玄関まで来たところで、彼はアリーナのほうへ向かう外部生らしき人たちを指差した。
「そうですね。……じゃあ、わたしはこれで」
紙袋の中から取り出したワークブーツに足を滑り込ませる彼の背中へ声をかける。
「じゃあねー」
見向きもしない彼の、ひらりひらりと振られた手。ため息をこぼしかけ、踵を返した。
見知らぬ制服を着ている男女が目に入り、どうか彼のような外部生ではありませんように、なんて祈ってみる。
あの人は私服だったけど、この辺で私服の中学っていうと……知らないな。
「ねー。万代ー」
……、呼ばれた? 半信半疑で振り返れば、彼はこちらを見ている。
「島崎叶(しのざきかのう)。覚えといて」
妖艶な微笑みをたたえ、彼は職員玄関を出ていった。
しのざき……なんて? かのお? かの?
……シノザキくん。うん、覚えた。
1年時から外内部生の混合クラスになるとはいえ、10クラス編成になるんだから、関わる確率はとても低いに決まってるでしょうけれども。
そんなことよりわたあめが待ってる!
科学室へ向かう足取りは軽い。
わたあめは数日前の中庭で感じた空気や胸中のように、きっとすごくふわふわで、甘いはず。
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