水島くん、好きな人はいますか。
・陽春に影がほのめく
『新入生代表、1年D組――水島 京』
学年とクラスが変わっても、入学式が行われたアリーナの演壇に立った彼は間違いなく、学院の誉れだった。
常磐苑学院高等部に迎えられた約180名の同級外部生。入学式の翌日1年生との対面式を終えた上級生。その内の何人かは、恋に落ちたと言っても過言ではないと思う。
「誰がいつ告られていいと言った」
水島くんが戻ってくるなり、仁王立ちで待ち構えていた瞬は眉根を寄せた。
「……メアド訊かれただけで告られちょらんって」
「メアドだあ!? あれほどモテる行為は控えろって言っただろーが! なに首席入学してんだよ! バカか!」
「うわっ! ちょ……っなんかや!」
瞬は水島くんの髪を両手でぐしゃぐしゃとかき乱す。
「存在感を消せ! 地味男になれ! あと縮め!」
水島くんの背を追い越せなくて悔しいのか。
1年生は今日、各クラス時間をずらしながら、入れ替わり立ち替わり健康診断を受ける日だ。
どこも混雑しているのは生徒たちがおしゃべりに夢中になって、きびきび検査を受けに行かないからだと思う。
廊下のど真ん中で騒ぐ瞬と水島くんも例外ではなく、自然と肩が落ちた。
ひとりでも目立つふたりが一緒にいるってだけで、存在感が余計に増すってことに気付いてほしい。