水島くん、好きな人はいますか。
◇
週末が明けた月曜日、水島くんは休み時間のたびと言ってもいいくらい女の子に声をかけられていた。
ほとんどが外部生みたいだけど、何人目だろう。
「水島くん、本当にモテるんだね……」
昼休み中盤、D組内を覗き込んでいたふたりの女の子は、残念そうに帰ってしまった。
「今もべつの子が来たけど、京がいないと思って帰ったみたいだよー?」
窓際の席に座るわたしとみくるちゃんは、ベランダにしゃがみ込む水島くんのくるっとしたつむじを見つめる。
「……腹減った」
あ、話逸らした。
「京も大変だね。朝からメアド聞かれて、移動で先輩に話しかけられて、昼休み早々呼び出されて告白されるなんて。こりゃしばらく続くね~」
さすがみくるちゃん、水島くんにも容赦ない。
「購買になんか残っちょるかな」
「告白は? また断ったの? かわいい子だったじゃん」
水島くんとそんな話をしたことがないわたしは落ち着きなく、ちまちまとおかずを食べ進める。
「ていうか毎回なんで断るのよ」
ごくん、と思わず飲み込んだ唐揚げが大きすぎた。胃に落ちていくその感覚は痛みを伴って、急いで水を流し込む。
それでも脳裏に浮かんだ金色のストレートヘアは、消えずに残っていた。
「他にすることあるけん」
「またそれぇ? 結局付き合う気がないだけじゃん」
口を尖らすみくるちゃんは「まったくもう」なんて言いながら、弁当箱を片付ける。
わたしは水島くんがピアスのついた耳たぶに指を伸ばすのを見て、目を逸らした。
――水島くんは医者になる夢を追い掛けているから、誰かと付き合うなんて頭にないんだ。
そう心から思えていたら、胸がこんなにもざわつくことはなかったかもしれない。