水島くん、好きな人はいますか。

「救助要員には、知っといてもらわんと」


どうしてそんな風に微笑むの。


ずるいよ。なにも言えなくなるじゃない。


「しばらく偵察してから利用させてもらうけん。内緒な」


これじゃあ共犯者みたいだよ……なんて思ってしまったことさえ、こんなにも、嬉しいなんて。


「救助要員は週3日、部活があるんですからね」


ゆるみそうになった頬を誤魔化すために口を尖らせれば、水島くんはくすくすと笑う。これ以上話していても埒が明かないと階段を上る。だって呼ばれたら、わたしは絶対に駆けて行ってしまうもの。


「そういえば、万代じゃろ?」

「なにがですか」

「弁当箱と一緒に包んでくれちょったおにぎり」


つんけんした態度をとってみようと試みていたわたしのそれは、早くも崩れ去る。


「弁当じゃ足りんと思っちょったけん、嬉しかった」

「あ、いや、それは……」

「すげーうまかった。ありがとう、万代」


まだ、わたしだと認めていないのに。わたしだと信じて疑わず、無邪気に笑う水島くんに「うん」と返すのが精いっぱいだった。


「じゃ。また明日」


職員室の前まで来たところで、水島くんが立ち止まる。


「……、うん。またね」


おだやかな微笑みが背を向き、曲がり角に消えるまで見送ってしまう。
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