水島くん、好きな人はいますか。




「まーよっ」


ぴん、と張った静粛の糸が立ちどころにゆるむ。


「え……!?」


ざわつき始めたクラスメイトからわずかに出遅れ、みくるちゃんも反応した。


「万代、あの人と友達になったの?」


なった覚えはない! 頭を左右に振っただけで脳震盪を起こすんじゃないかってくらい、力強く否定する。


けれどシノザキくんが、わたしを指名してD組に来たという現実は否定できない。一瞥しただけでも笑顔なのがわかった。やたら楽しげな声でもあった。


どうしよう。行きたくない。


四方八方から視線を感じても動けずにいるわたしは、ドアをノックする音にさえびくついた。コンコンッというそれが、やがてゴンッという支配力を持った音に変わる。


「いつまで待たせる気? 呼んでるんだけど」


ああ……もう、ああ……嘆くことしかできないなんて。


「ま、万代。一緒に行こうか?」

「大丈夫……行ってきます」


余計な心配をかけたくなくて黙っていたのはわたしだけどさ……瞬はなにをしてるの。シノザキくんと関わらせたくないんだなと感じたのは、勘違いじゃないと思うんだけど。


「やっと来た」


恐る恐る見上げると、シノザキくんはにこりと笑顔を作る。


「二度と俺を待たせないでね」


なんという言い草……。


初めて言葉を交わしたときの彼は夢でも幻でもなかったんだと思い知る。そして昨晩、知らないアドレスから届いた≪マヨネーズってなに?≫という奇妙なメールは彼だと確信する。
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