水島くん、好きな人はいますか。
シノザキくんは廊下の窓まで歩き、そこへもたれてわたしを見つめる。
『来い』ってことだよね。
ぽてぽてと力なく歩み寄ると、
「好きだろ」
なんとなく口から出たという感じの、少しも抑揚のない声がした。
……この人、今、なにか言った?
「水島くんってやつのこと、好きだろ」
シノザキくんの声が先ほどよりも明瞭に響き、奥二重の瞳は今に限って、わたしの全身をわななかす。
「聞いてんの? 好きなんだろ。あそこにいる、」
「――っシノザキくん!? ちょっ、なん……っなに言ってるんですか!?」
大急ぎで周りに誰もいないことを確かめる。廊下の先でこちらを見ている人はいたけれど、幸い向かい合うわたしとシノザキくんの背後を歩こうとする人はいなかった。
ほっ、と胸をなで下ろす。
「なんだ。やっぱ好きなんだ」
「えっ!? な……っちが、誤解です……!」
「いいから、そういうの。否定とかめんどくさいことしないでくれる? 顔に書いてあるから言ってんのね、俺は」
未知の生物と出会った気分のわたしは口を半開きにしたまま、彼に通じない言葉を失った。
「どのへんかって言うと、このへん」
シノザキくんはにっこり微笑み、人差し指でわたしの頬を楽しげにつついてくる。
……ついていけない。というか、ついてこさせようとしてくれない。
なにか言わなくちゃ。このままじゃだめに決まってる。でも、なにをどう言えば通じるかがわからない。
だってわたしは水島くんのこと、……。