水島くん、好きな人はいますか。
「なに。なんで泣きそうな顔してんの」
ぎくっとしたわたしは、「してません」と顔を背ける。その態度が『してる』と言っているようなものなのに、後悔先に立たずだ。
彼の視線を感じても、見返すことはできないように。わたしはまだ、胸の奥でふたをした感情と向き合えずにいる。
何度も溢れそうになっては閉じ込めて。きっと閉じ込めた回数より多く溢れさせてしまっていても。
向き合えないままの今日で、認められないままのわたしだ。
「ねえ。泣く万代は見たいけど今はやめてくれる?」
「……泣きませんし、見たいっておかしいですよ」
「俺がめちゃくちゃに泣かせたってほうが楽しい」
どうしよう言葉が通じない上にサディスティックとか予想を裏切らない。
「もういっそ泣きたいくらいです……」
「なんで? ……ああ。べつに誰にも言わないけど」
「……、え?」
「言いふらすとか、脅すとか、そんなつまらないことはしないって言ってんの」
そういう意味で言ったんじゃないけど……。
じゃあ、彼はいったい、なにがしたいんだろう。
「どうして急に……わたしを構うんですか」
シノザキくんはかっこいいし、地味で凡人のわたしに話しかけるような人には見えない。
いくら顔見知りで会話もしたことがあるとはいえ、彼が水島くんのように『1回話した者は友』なんて思っているわけがない。
「べつに急でもないだろ」
じっと見つめてくるシノザキくんが、わたしの髪をあの日のように掬う。