水島くん、好きな人はいますか。
「ハカセかあ。りっちゃん、中等部にあがったころから目をつけてたもんね。最近しゃべってないなー……元気?」
「元気ってか、いつも通りだね。淡々と、マイペースに、冗談をかます」
「あははっ。じゃあ元気だ」
「あ、でも驚いたよ。この前話しかけられてさあ」
りっちゃんは眼鏡を押し上げるハカセの真似をして、低い声まで出した。
「『りっちゃんから見た俺ってどんな感じ? メガネは除外してね』って。吹いちゃったよ。あたしからメガネ男子萌えを奪うとかやりおる」
笑ってしまって、似てないと伝え損ねた。
「ありのまま答えたけどさ~。メガネくんでも誰にどう見られてるとか気にするんだなーって驚いたよ」
「うん、意外。ハカセって自分のペース保つもんね」
「そこがいい」
むふふとまた妙な笑い方をするりっちゃんも、自分のペースを崩さない人だよなあと思っているうちに、彼女が降りる駅が近付いてきた。
「まあ色々あるだろうけど、幼なじみくんとは長年の付き合いなんだから大丈夫でしょ。ゴシップ王子のネタは回してあげるからさ、うまくやんなっ」
なんてたくましいんだろう。
ネタというのはどうかと思うけど。
「ありがとう。なにかあったら連絡するね」
「毎朝会うけどねー」
けらけら笑うりっちゃんは停まったバスから降り、発車するまで手を振ってくれた。