水島くん、好きな人はいますか。

「飲みもん買いに行く?」

「ううん……。ありがとう、水島くん」

「そ? ならよかけど」


ありがとう。当然のように助けてくれて。


水島くんに向けていた笑顔を消し、隣から注がれている視線を自分のそれと交差させる。


興醒めし、退屈していることを無表情に絡める島崎くんは、霞に巻かれたような人。


整った顔貌にたたえる笑みはきれいでも、いろんな感情を笑顔で代用しているみたい。


「万代はさ、実態と心象が相違なく合致してると思う?」


訊いておいて席を立った島崎くんに関して言えば、わたしの彼に対するイメージと彼の実態は6割がた合っていると思う。それ以上は無理だとも思う。


島崎くんが笑みを浮かべるときは、不可解な言動をするときだから。


「たまにアンタのことバイト帰りに見掛けるけど、夜までなにやってんの?」


問われたのはロッカーに寄りかかっていた水島くんだった。


バイトは禁止のはずだけど……夜に出歩くことのなにが不思議なんだろう。夜って何時?


そしてやっぱり島崎くんは微笑むだけで、返答を待たずに教室を出て行った。


「あたし、あの人嫌いかも」


ぽつりと零したみくるちゃんに次いで水島くんがため息をもらし、隣にやってくる。


「万代。しんどくなったら頼れな?」


机に手をつき、顔を覗き込むように首を傾げてくる水島くんに、胸の奥がことんと音を立てる。


「……うん。ありがとう」


大したことはされていないのに、心配してくれてるんだね。


ちょっとだけ頬をゆるめれば、水島くんも同じようにしてくれた。
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