水島くん、好きな人はいますか。
◇
たぶんわたしは、しんどさを感じているわけじゃない。ただ怖いと感じて恐れている。
島崎くんの目的がわからなくて、怖い。
次になにをされるかわからなくて、怖い。
かと言って生きた心地がしないほどでもないから登校を続けるわたしは、蛇に見込まれた蛙なのかもしれない。
「ごくろうさま」
肩を押し退けられたせいで自販機に並ぶ生徒の列から外れ、代わりに島崎くんが立った。
もちろん頼まれて並んでいたわけじゃない。
押し出されたまま少し考え、隣の列で呆気に取られていたみくるちゃんに歩み寄る。
「ごめん、わたしのも頼んでいいかな」
「もちろん! いいよ、当たり前じゃんっ!」
むしろあいつに買わせたい。小声で言ったみくるちゃんも、島崎くんと極力関わりたくないみたい。
だけど顔を合わせれば高確率で、島崎くんは声をかけてくる。
移動教室から戻ってきたとき、彼と目を合わせないように教科書を開いたのがいけなかった。
「あげるー」
教科書に落ちてきたのはストローが刺さったチルドカップコーヒーだった。
まさか飲みかけ!?
慌てて掴んだそれは軽く、溜め息を吐く。
ゴミか……。わたしに嫌がらせをしたいのは充分わかったけど、きっかけはなんなんだろう。