水島くん、好きな人はいますか。
「いいね、瞬。実は万代じゃなくて俺をけなしてるだろ」
「わかってんなら、くだらねえことしてんじゃねえよ」
ぐるんっと振り返った瞬は、なにをされたか訊いてくるので、みくるちゃんのほうに目を向ける。
「みくる。よこせ」
瞬はそう言って取り上げたカップを持ち主に差し出した。けれど島崎くんは受け取らず、廊下の窓へ視線を投げる。
「俺さあ、」
「うおい! 叶てめぇ、目も耳も腐ってんのかっ」
「他人に守らせて、自分はかわいそうなんですーって戦おうともしないやつ、嫌いなんだよね」
わたしに視線を移した島崎くんは微笑み、こてん、と頭を横に倒した。
「万代は違うだろ?」
え? わたしがそういう人だから嫌いって言いたかったんじゃなくて?
……なにがしたいんだろう、この人。
牽制のため、ちらりと瞬に目を遣り、わたしの戸惑いなどまるで意に介さない島崎くんと向き合う。
「あの……どうしてこんなことをするのか、理由を教えてください。わたしが貴方になにかしてしまったなら、」
「なんですぐそういう思考になるかな。俺は万代になにもされてないよ。マヨネーズから始まる陰気で醜悪な雑言なら聞かされたことはあるけど」
陰口を叩かれていたことを、他人から逡巡もなく告げられたのは初めてだった。
多少は傷付くけれど、顔の見えない誰かよりも、目の前にいる島崎くんのほうが何倍も怖く思う。