水島くん、好きな人はいますか。


『あ、盗んできてって意味』

「ぬすっ……!? 無理ですよっ」

『なーん! 借りるだけ借りるだけ! 見つからなきゃいい話だけん!』

「見つかったらどうするんですか……!」

『そこは万代の腕の見せどころー』


呑気にけらけらと笑う水島くんは、遅刻魔サボリ魔の問題児としても有名。


その片棒を担げと……?


でも、また飛び降りさせるわけにはいかない。


でも、屋上の鍵を借りられる正当な理由も思いつかない。


……どうしてわたしなの。


職員室から鍵をこっそり拝借するスキルが、わたしに具わってるはずないじゃない。


大した特技も取り柄もないし。


わたしは、校則違反上等だろうと秀でたものをなにかしら持つ瞬や、その周りの人たちとは似ても似つかないんだから。


「そういうのは……」

『うん? なんて?』


瞬に頼んだほうがいいと思う……のに。



「ど、どのくらい待っていただけますか」


わたしの、バカ。絶対に無理。こんなの絶対に後悔する。


ぎゅっと携帯を握り締めて俯くわたしの耳に、音もなく散る花びらのような、笑い声。


それは水島くんの微かな息使いを、脳が勝手に“笑った”と判断したのだけれど。



『万代が来るまで、待っちょる』



水島くんの声がとてもやわらかくて穏やかだということは、赤みの差した頬が証明していた。

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