水島くん、好きな人はいますか。
少し冷たい春風が気持ちいい。暮れ始めた日の橙色に照り映える雲もきれい。
「――……、」
意識を飛ばしていたわたしの視界に、ひらりと1枚のプリントらしき紙が落ちてきた。
屋上のさらに上といえば塔屋しかない。
水島くんのかな、と拾い上げたところで屋上のいたるところにプリントが落ちていることに気付く。
「え……。水島くんっ、プリント! 飛ばされてるよ!?」
塔屋に向かって声を発したが水島くんは寝ているのか反応はない。
宿題とか補正プリントだったらまずい……!
大急ぎで拾い集めたプリントは、屋上の出入り口からずいぶん離れたところまで飛ばされていた。
これで全部かな。枚数を数えると全部で7枚あり、何気なしにプリントを見て目をしばたたく。
なに、これ……。
宿題でも補正プリントでもない。新聞や論文やコラムらしきもののコピー。そのどれもが『心臓病』や『精神疾患』についてだった。
2枚だけ水島くんの手書きも交じっていて、いつもは基本に忠実できれいな字が見たこともないほど乱れている。
これ、資料集めだよね? でもこんなテーマでレポートを書けなんて宿題は出てない……ってことは水島くんが個人的に集めて、まとめてるってこと?
「……すごい、」
ひゅっ、と息を吸い込んだわたしは、かさかさという音の出所を探し、見逃していたプリントの存在に動揺した。
まごつきながらも集めたプリントを地面に置き、携帯を重しにしてフェンスに駆け寄る。