水島くん、好きな人はいますか。
「ああっ!」
縦格子のフェンスには等間隔で隙間があり、そこからプリントがフェンスの向こう側へ飛んでしまった。隙間から腕を伸ばしてみても、届かない。
もう……っ風が吹きませんように!
――がしゃんっ。蹴ってしまったフェンスが気を付けろと怒ったみたい。
「万代!?」
「あ。プリント! 飛ばされてるよーっ!」
鎖骨あたりまで高さがあるフェンスの手すりを超えたときだった。上半身を起こしていた水島くんが勢いよく塔屋から飛び降り、駆け寄ってくる。
ぐんぐん近付いてくるその慌てっぷりに、拾っておいてよかった、と足元のプリントも回収した。
すると、すぐ後ろからがしゃんっと音がして、腕を掴まれた。見向けば水島くんが手すりから身を乗り出している。
「~なんっ……バカ!? ほんと……っなにしちょー!?」
「え……。プ、プリントを」
「プリントなんかほっとけや!」
「だ、大事なものかと思って……」
びくつきながら眉尻を下げると水島くんは口をぱくぱくさせてから、がっくりと項垂れた。
そよ吹く春の風が、俯く水島くんの髪を優しく撫でる。
どうしたんだろう……バカって、危ないだろってこと?
腕を放してくれる気配がなく、1歩進むと太ももが冷たいフェンスに触れた。
「……ごめん」
なんとなく、言ったほうがいい気がした。