水島くん、好きな人はいますか。

なにげない言葉のはずだった。


『気を付ける』くらいは返ってくるかと思っていた。


だけど、黙ってプリントを受け取った水島くんは、心臓のイラストが載っているそれを眺める。じっと無心に見ているようで、猛る感情をなだめすかしているようにも見えた。


もしかして……。


記憶の海の底からぽこぽこと浮かび上がってくるのは、愁いを帯びた顔をする水島くんだった。


その横顔はいつも上を見ていたはずなのに。目を伏せることはあっても、俯かなかったはずなのに。


また、落ち込んでたの? ……どうして?


滲み出す不安が、鼓動を急き立てる。


水島くん。呼んだらいつものように『うん?』って……微笑んではくれない気がした。


「俺が負う怪我の痛さなんて、比べものにならん」


プリントから目を放さない水島くんの横顔が、陰る。


「精神的な痛みと、物理的な痛み。もしそれが同時にきたら、どれだけ……」


水島くんの手に力が込められた分だけ、ぐしゃりとプリントにしわが寄った。


その言動にどれだけの想いが含まれていたのか、誰と比べて、どうしてそんなことを言うのかだって、わからない。


でもプリントのしわが、水島くんの心を具現したようで。それ以上、筋目が増えるのはなんだかとても悲しく思えて。ぐしゃっ――と、さらに力の入った水島くんの手を止めた。


顔を見ることはできなかった。衝動的に重ねた手が震える前に、きゅっと水島くんの手を握る。
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