水島くん、好きな人はいますか。


「なにか、あった?」


水島くんが握り締めるプリントを見れば、それくらいは予想がつく。


雨の日、病院の前で会った。自由な校風を重視していた。サボってばかりなのに、宿題でもない心臓病や精神疾患の資料を集めている、そのわけは――。


「誰か……水島くんの身近な人が今、痛いって、苦しんでるの?」


上げた視線の先で、水島くんは悲愴な面もちでわたしを見返していた。それが答えのようなものなのに、水島くんは唇を結んで首を左右に振った。


「ちがうの? でも、水島くん、つらそうだよ」


再びゆるく、二度首を振った水島くんはなにを否定したいんだろう。


痛いなんてもんじゃないってこと? つらくなんかないってこと? ……答えたくない、ってこと?


「話したくない?」

「……勝手に始めた、俺個人の問題だけん」

「……そうやって、向こうの友達にも、なにも言わずに転校してきた?」


水島くんは落としかけた視線を止め、そこで目を見張った。


やっぱり……否定しないんだね。


「水島くん、言ったじゃない。わたしがなにも言わず瞬たちを避けたとき、『離れられる側は、悲しいんだな』って。向こうの友達の話もしないし……連絡も『必要であれば取ってる』って、避けてるみたいだったから……」


違和感は、他にもあったよ。それがまさか、こんな形で原因に近づくことになるとは思わなかったけど。
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