水島くん、好きな人はいますか。

「その大事な人を、救いたいの?」

「救いたいっ……」


どうしても。自分の手で、全てで、なにがなんでも。


そう言っているみたいに、水島くんはわたしが重ねた手の下で、いっそう強くプリントを握り締めていた。


……心臓が、悪いのかな。でも物理的な痛みと精神的な痛みって、どういうことなんだろう。難しい病気なのかな。


わたしには把握できずとも、水島くんは暗く深い底へ沈んでいる誰かの痛みを、明るい場所へ導きたいんだろう。


そんなにつらそうなのに、背負ってるものはとても重そうに見えるのに、手放したくないんだね。


「俺……言うたが。アイツに、守っちゃるって……俺が、ずっと……」


顔を歪ませた水島くんはそれきり、口をつぐんでしまった。



ふわり。なびいた自分の髪が夕日に透けて、一瞬だけ金色に見えた。


そうしてやっと、水島くんの言う“アイツ”が“あの子”なのではと思い至る。


自分の痛みと比べものにならないと言った誰かの痛みは、“あの子”のもの。医者を目指すのは、“あの子”のため。告白を断るのも、“あの子”がいるから?


水島くんは守ると言ったのに、なにも言わず離れてしまったから、“あの子”は――…。


痛んだ胸に、少しずつ得た水島くんの欠片が集まって、わたしの知らない水島くんの一部を埋めていく。


埋めてほしくない。詳しく知りたくない。そう思っているはずなのに。


わたしの心は、わたしの手も声も届かない場所にあるんだもんなあ……。
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