水島くん、好きな人はいますか。
「気休めじゃ、ないでしょう?」
視線の端で、夕陽を反射するふたつのシルバーピアスが輝いている。その奥に、『京』と叫び、泣き崩れそうな表情をしていた“あの子”の面影を見る。
「……水島くんは頑張っていて、それは……そのピアスは、気休めなんかじゃないんでしょう?」
水島くんは顔に力を入れているのか、目を細め、唇もぴたりと閉じていた。
その横顔が泣くのを我慢しているように見えて、わたしのほうが涙を零してしまいたくなる。
「決意にしたっていいじゃない。今より子供で、どうしようもなく単純で、なんだってできると思ってたころの水島くんがいたから、水島くんはここにいるんでしょう?」
ねえ、水島くん。
泣かないで。たったひとりで、泣かないで。
「その資料は、大事な人を救いたくて、集めたものなんでしょう? 必死に、ずっとひとりで、頑張っていたんでしょう?」
なんでもかんでも話してほしいわけじゃない。だからこそ、心のすみっこでいいから、添えていて。
わたしがいるよ。
水島くんは大事なものを全て置いて、覚悟を持って、転校してきたってことを知っているわたしが、ここにいる。
「今、水島くんが感じてる不安に、『大丈夫だよ』って。わたし、言ってあげられないけど……」
でも、少しは知っているから。ずっと、見ていたから。