水島くん、好きな人はいますか。
「……水島くん」
折りたたまれたミニタオルを差し出す。涙のあとに続くものはなかったけれど、ゆらりと顔を上げた水島くんの瞳はまだ、涙ぐんでいた。
ああ……こんな気持ちだったのかな。
『泣くなやー!』って笑ってくれた日の水島くんを思い出し、微笑む。
「貸してあげる」
そう言うと水島くんはわたしの手の平に載るミニタオルへ視線を落とし、やがて口元をゆるませた。
必要ないよ、って言うみたいに。泣き顔を見られちゃったな、ってはにかむみたいに。
「……ありがとう、万代」
何回も聞いたことのある言葉が、今日はすとん、と胸の中に収まった。
「「――あ」」
ぴゅうっとひときわ強い風が吹き、ミニタオルが飛んでいく。というのにわたしも水島くんも春風とたわむれるそれが落ちていくのを眺めていた。
音もなく眼下の屋外プールに落ちたミニタオルはなおも遊び続け、ふよふよと水の上を泳いでいる。
「ぷっ」と吹き出したのはどちらが先だったろう。
「あははっ! すごいタイミングッ」
「ほんと……っごめん俺、どこまで飛ぶんかと、」
「思ったよね! 絶対プールに落ちるとまで思ってたっ」
くすくすと笑い続けたわたしたちは、じきに別々の方向を見ていた。わたしはプールを泳ぐミニタオルを。水島くんは遠くの茜色の空を。
眺めては想いを募らせ、歩き出すために立ち上がる。