水島くん、好きな人はいますか。
「みんな待ちくたびれてるかも」
「……そこは俺が謝るしかないじゃろ」
「土下座で?」
「えっ!?」と驚く水島くんにくつくつ笑えば、からかわれたことに気付いたのか、眉を下げて笑ってくれた。
先にフェンスを越えた水島くんに続き、手すりに置いた両手に力を入れる――と。
水島くんに、抱き締められた。
それは両脇の下から抱きしめる形で体を支えてくれたのだと理解していても、水島くんの肩に顔をうずめることになったわたしは、瞬時に赤くなってしまった。
「この身長でどうやって飛び越えたかや」
「う、え……っと、」
「引き上げちゃるけん、頑張れ」
頑張るもなにも、ひとりで越えられるのに……!
今さらやめて、なんて意識してる風なことは言えなくて、片方の手を水島くんの背に回した。激しく鳴る鼓動が伝わらないか心配しているうちに、屋上に降り立つ。
……細いのに、力、あるんだ。
「あ、ありがとう……」
おずおず自分から離れると、回されていた水島くんの腕も解かれる。
「なんか、喉、かわいた、な」
「じゃあ自販機寄ってから行くか」
ぎこちなさ満点のわたしと違い、水島くんはプリントを拾い上げ、重しにしていた携帯を手渡してくれる。
「荷物取ってこんと」
水島くんは小走りで塔屋に向かった。
すぐあとに続けなかったのは、溢れる好きの想いの隣に、悲しみが根を張ったから。
わたしの好きな人には、好きな人がいるのかもしれない。
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