水島くん、好きな人はいますか。
・滲む世界
「おじゃましまーす」とD組に入ってきたりっちゃんのうしろには、ハカセもいた。りっちゃんは数冊のコミック片手にわたしとみくるちゃんの元へやってくる。
「漫画の続き持ってきたよー」
「ぎゃー! やった! 待って、借りてたの返すからっ」
みくるちゃんが自分の席へ駆け出せば、りっちゃんは追い掛け、誰が好きとか、この場面でときめいたと騒ぎ出す。その様子を眺めていると、ハカセが目の前にやってきた。
「3日ぶりですね。今日はどうしたんですか」
「んー。京に用があったんだけど、いないみたいだね」
「あ。いますよ」
真横にあるベランダを指差す。ハカセは机に手をつき、壁にもたれて眠っている水島くんを見つける。
「はは。ほんとだ。相変わらずだなあ、京は」
用事はいいのかな?
ハカセは水島くんに声をかけず、椅子に座る。
「勉強会のとき話せなかったけど、大変なんだって?」
「大変? あー……島崎くんのことですか」
「うん。彼、マヨマヨをいびってるって、僕のクラスでも有名人」
うわぁ……。“万代”をいびって有名になるのは勘弁してほしい。
「えっと、でも最近は顔を合わせてないので、とくに大変なことはなくてですね……」
あの日以来ぱたりとなにも起きなくなった。『もういいや』とも言っていたし、飽きたのかもしれない。
「わたしとしては、このまま忘れてほしいところです」
「彼、一筋縄ではいかなさそうだもんね。下手に反撃して刺激するよりかは、受け流すのがいいと思う」