水島くん、好きな人はいますか。
「ちょっと万代! 万代もこれ読むべきだと思う!」
突然コミック片手に歩み寄ってくるりっちゃんは、ずいぶんテンションが上がっている。
「彼女ちゃんと意見が分かれてさ! 万代はどのキャラにきゅんとするかを決めるべき!」
「わわ、わかったから……っ落ち着いて!」
ぐいぐい押し付けられたコミックを受け取ると、りっちゃんは「彼女ちゃんもそれでいいでしょ!?」と振り返る。
けれどみくるちゃんは開いたコミックに目を落としたまま、こちらに向かって手招きをした。
「りっちゃん、この場面も追加! マジ胸きゅん!」
「どこどこ!?」りっちゃんは目を輝かせ、みくるちゃんの元へ戻っていく。
好きなものを前にすると、周りの視線などお構いなしなふたりが微笑ましくもあり、少し羨ましい。
アイドルとか、ドラマとか、ファッションの話題でも。わたしはいつも隅っこで頷いているだけだ。
「マヨマヨは混ざらなくていいの?」
「そういうハカセだって」
「僕? 少女漫画片手にはしゃいだほうがいい?」
ぶふっと思わず吹き出してしまったのが答えだ。
「ね、やめたほうがいいでしょ?」
「すいません。愚問でした」
少女漫画じゃなくても、ハカセはどっちかといえば騒がないほうだもんね。冗談は言うけど、抱腹絶倒しているところなんて見たことがない。
「じゃあ僕、そろそろ戻るね」
微笑むハカセに手を振り返し、小首を傾げる。
水島くんとりっちゃんは置いといて、みくるちゃんに声かけなくてよかったのかな。