水島くん、好きな人はいますか。
「今のハカセ?」
「ひいっ!」
驚きから飛び上がったら、膝を机の下に強打した。
うう……痛い……また笑われた。
サッシに両肘を置く水島くんは「ごめん」と言いながらも笑顔は崩さない。
「ハカセは水島くんに用があったみたいですよ」
「俺? なんじゃろ」
「隣のクラスなんですから訊きに行ったらどうですか」
膝をさすりながら言うと、水島くんはサッシに足を掛けて教室に入ってくる。
「休み時間終わるけん、あとでメールしとく」
そう言うなら自分の席に戻ればいいのでは……。
先ほどまでハカセが座っていた席に、今度は水島くん。
「寝ちょった」
「……知ってます」
「知ってますって! なら起こせやーっ」
「気付いたの授業中ですもんっ。それに世界史だったからサボりたかったのかと思いました」
「世界史か……」
遠くを見た水島くんは、ちらりと顔をうががってくる。
万代、と呼ばれたら無視できない。
両手を合わせてお願いされたら、断れない。
「ノート見せて?」
ああ、もう……本当に、ずるい。
チャイムが鳴ったことで、“自分の席に戻ればいいのに”なんて嘘だったことが浮き彫りになる。
それが表に出る前に、世界史のノートを差し出した。
「さっすが万代! 優しーっ」
無邪気に笑う水島くんは瞬の言葉を借りて、自分の言葉も付け足してくる。誰にでも優しい水島くんはきっと、気付けないんだろうけどさ。
水島くんが、わたしを優しくさせるんだよ。