水島くん、好きな人はいますか。
大方把握したと言っていたのは、わたし自身のことや、交遊関係とか、それぞれの人柄とかで。収穫のひとつと言っていたのは、瞬とみくるちゃんとハカセのこと?
「ほんと、イメージ通りすぎてつまらない。どうせバレても、万代なら守ってくれるとか思ってたんだろ」
……頭がついていかない。
今わかるのは、島崎くんは自分の予想とズレる人間や事象が好みだということ。
彼にとってこの噂が立てば生徒が騒ぐのは予想通りであり、煩わしいものでしかないということ。
噂を流したのは彼ではなく、りっちゃんが言っていたように、疑っている人が他にもいたのだということ。
「なあ、万代。ひしゃげたカップは、捨てるしかないって言ったよな?」
眉を顰めたわたしに微笑む島崎くんが向けてくるものは、悪意なのか、善意なのかもわからなくなってきた。
「じゃ、さっさと解決してね」
島崎くんが去り、この場にしゃがみ込みたくなるほど疲れが押し寄せたけれど、自分のことは後回しだ。
「みくるちゃん、」
声をかけた瞬間に顔を逸らされ、次の言葉が出てこない。
……泣いてる、よね。
さっと頬を拭ったみくるちゃんは、それでもわたしと目を合わせようとはしてくれなかった。
「ごめん、万代。今は、ちょっと……、ごめんね……っ」
自分の席へ戻ってしまったみくるちゃんを、クラスメイトの誰もが見ていたように思う。大半は好奇で、もしかしたら侮蔑も含まれているのかもしれない。
嫌だな……。この空気は息苦しくて、嫌だ。