水島くん、好きな人はいますか。
「――っハカセ!」
校舎から出てきたハカセは目を丸くさせた。
「ま、待ち伏せしてごめんなさい……あの、これから時間、ありますかっ」
たどたどしい口調で言い切ると、ハカセは眉を下げて微笑んでくれる。歩み寄ってくるハカセに、ぎゅっとスクールバッグの紐を握り締めた。
「部活は休みだったの?」
「いえ……部活には出ました」
「そう、おつかれさま。じゃあ、どこ行こうか。下校時刻になるから場所変えないと」
ハカセの提案で飲み物を買ってから正門をくぐり、学院を囲む花壇のような外縁部に腰掛けて話すことになった。
わたしが乗るバス停が目視できる距離にあって、口にしないハカセの優しさに心苦しくなる。
「直球でごめんね。僕を待ってたのは噂のせいだよね」
「……はい」
「そっか。今日みくるの様子はどうだった? 話せた?」
「2限目まで教室にこなくて……謝られました。今は話せないみたいで、それでも何回か声をかけたんですけど、『合わせる顔がない』って」
お互い飲まないペットボトルの表面に水滴が浮かび出す。ぽつぽつとしたそれを指で拭ったとき、
「僕ね、みくるのことが好きなんだ」
そよ吹く速さでハカセは言った。
「ずっと、ただ好きなだけで。そばにいられたら充分だったから、みくるも瞬も、誰も僕の気持ちを知らなかった」
「い、いつから……」
「いつだろう。たぶん11歳からかな。一緒にいすぎて正確にはわからないんだ」