水島くん、好きな人はいますか。
「みくるちゃん……泣いてましたか」
両手でぎゅっと握ったペットボトルの一部がへこむ。
ハカセは小さく「一度だけ」と教えてくれる。
「2月下旬くらいかな。瞬とあの子が日直だった日、ふたりで一緒に帰ったみたいで。そのあと、あの子が男友達をひとり呼んで、3人で夜まで遊んでたみたい」
「……」
「それをあの子が、みくるも見てるブログに書いたんだよね。写真付きで、喜々とした文章で」
日直って、あの日だよね。
瞬はわたしを使って遠まわしに巻き子ちゃんを牽制していたけど……逆に火を付けたってこと?
「その日みくるは、友達が堂々と自分を裏切る怖さとか、悲しさとか。瞬に対する不満とか、憤りが爆発しちゃったんだろうね。携帯を投げて、ずっと泣いてた」
隣り合うわたしたちは互いの顔を見ないまま、沈黙する。人も車も目の前を通るのに、とても静かに感じた。
ようやくペットボトルのふたを開けて喉を潤したあと、問いかける。
「そのときハカセは、『僕がいるよ』って言ったんですか」
「ううん。言わなかった」
言ったようなものだけど。付け足された言葉にハカセを見る。彼もまた、わたしを見ていた。
「泣くみくるにキスしたんだ。何度も、長い時間」
顔を背けたわたしはまた、ペットボトルを強く握り締めていた。驚きはあった。胸が抉られるような痛みもあった。そして、納得もできた。