水島くん、好きな人はいますか。
僕がいるよ、って。言わなくても伝わるとしたらキスもひとつの方法だと思う。何度も、長い時間、唇を重ねたのなら、みくるちゃんは拒むことをしなかったんだと思う。
「みくるちゃんとハカセは……最近、お互いを避けていたように見えました」
「そうだね。みくるがすごく後悔したから。ごめんって謝られたよ。僕は好きだって言えないまま、2月が終わって。みくるは罪悪感を募らせたまま、3月に入って。僕は高等部に入学する前に、好きだよって伝えた。『だめだよ』って言われたけどね」
「……、それなら、どうして今、噂が……」
「みくると瞬が喧嘩したのは知ってる? 4月中旬くらいに喧嘩したって。僕はそれをこの前の勉強会で知った」
記憶が思考の中で明滅する。
席を立った瞬。水島くんを探しに行こうとしたわたしを引き止めたみくるちゃん。なにも言わなかったハカセ。
静かな図書館で息をひそめたのはきっと、ふたりだけじゃない。
「あの日、僕はもう一度気持ちを伝えたけど、みくるは逃げた。だけど押せば、頷いてくれる気がして……席を立ったみくるを追いかけたんだ。図書館の端っこまで」
「……その日もキス、したんですね」
「うん。一度きりだったけど、みくるは俯いて泣いただけだった。それを誰かに見られたのかもしれない」
ぐわんと頭の中が揺れるようだった。