水島くん、好きな人はいますか。


僕がいるよ、って。言わなくても伝わるとしたらキスもひとつの方法だと思う。何度も、長い時間、唇を重ねたのなら、みくるちゃんは拒むことをしなかったんだと思う。


「みくるちゃんとハカセは……最近、お互いを避けていたように見えました」

「そうだね。みくるがすごく後悔したから。ごめんって謝られたよ。僕は好きだって言えないまま、2月が終わって。みくるは罪悪感を募らせたまま、3月に入って。僕は高等部に入学する前に、好きだよって伝えた。『だめだよ』って言われたけどね」

「……、それなら、どうして今、噂が……」

「みくると瞬が喧嘩したのは知ってる? 4月中旬くらいに喧嘩したって。僕はそれをこの前の勉強会で知った」


記憶が思考の中で明滅する。


席を立った瞬。水島くんを探しに行こうとしたわたしを引き止めたみくるちゃん。なにも言わなかったハカセ。


静かな図書館で息をひそめたのはきっと、ふたりだけじゃない。


「あの日、僕はもう一度気持ちを伝えたけど、みくるは逃げた。だけど押せば、頷いてくれる気がして……席を立ったみくるを追いかけたんだ。図書館の端っこまで」

「……その日もキス、したんですね」

「うん。一度きりだったけど、みくるは俯いて泣いただけだった。それを誰かに見られたのかもしれない」


ぐわんと頭の中が揺れるようだった。
< 259 / 391 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop