水島くん、好きな人はいますか。
「みくるは瞬が好きだよ。僕は、みくるが弱ってるところに、つけ込んだだけ」
「……そうだと、しても」
たとえみくるちゃんが弱っていて、好意を向けてくる相手に心が揺れたとしても、ハカセだったからでしょう?
「みくるちゃんは誰が相手でも、同じことはしない……」
どういう風になってほしくて、こんなことを言っているのか。無責任だ、わたし。でも。でも……。
「ありがとう」
ひとり悪者になろうとするハカセの心を、掬い上げたい。
「……っハカセは決めたの? 瞬を選ぶならそれでいいって。自分を選んでほしいって……もう、思ってないの?」
「うん……そうだね」
消え入りそうな声に顔を向けると、ハカセの輪郭は街灯の明かりに柔く縁取られていた。
「本心では僕を選んでくれたらいいなと思ってる」
わたしに視線を移したハカセはまた眉を下げ、悲しそうに笑う。
「軽蔑する?」
問われた瞬間に強く首を左右に振った。それは段々と小さくなり、俯いたわたしは下唇を噛んだ。
泣いちゃだめ。話を聞いておきながら、ハカセの本心を知りながら、背中を押すことはできないんだから。
「僕がした話は、みくるも瞬に話してると思う」
ハカセが立ち上がったのがわかる。
「聞いてくれてありがとう」
俯くわたしの頭に大きな手が置かれたのがわかる。
「気をつけて帰ってね」
頭をひと撫でされても、ハカセの足音が遠のいても、動くことはできなかった。
ハカセの恋愛なら応援したいのに……。
相手がみくるちゃんじゃなければと思ってしまったわたしの世界は涙で滲み、歪んでいた。
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