水島くん、好きな人はいますか。
「万代ちゃん」
情報教室での授業から戻ってきたわたしを、巻き子ちゃんが待ち構えていた。
思わず足を止めると「先行ってるねー」とひとりのクラスメイトが言い、目に好奇の色を孕ませた。
……なんの用だろ。
「みくると一緒に移動してないんだね」
渡り廊下で巻き子ちゃんと顔を見合わせる。
「……みくるちゃんに用ですか」
「うん、連絡返してくれなくてさー。直接話したいんだけど、教室行くといっつもいないんだよね」
ふてくされる彼女はきれいに巻いた髪を指先で撫でつける。
少し、髪を切ったように思う。
「ね。みくるがハカセと浮気したってほんと?」
人目をはばからない彼女に、名状しがたい感情が襲った。
この気持ちは……怒りじゃない。悲しみでも、恐怖でもない。漠然とした拒絶反応。
心の奥底で、この子の味方にだけはなれないと悟った。
「万代っ!」
「水島く……」
「ああっ! みくる! やっと見つけたーっ」
まだ情報教室から戻っていなかったんだろう。渡り廊下にやってきた水島くんとみくるちゃんに、巻き子ちゃんはすぐさま反応した。
「ちょっとみくる! 連絡くらい返して――」
みくるちゃんに近付こうとした巻き子ちゃんを、水島くんがその身で遮る。