水島くん、好きな人はいますか。
水島くん……だよね。思った通り、無事に着地したらしい彼は振り返り、わたしに気付く。
がらりと窓を開けた水島くんは気まずそうに笑った。
「今日はどこから飛び降りてきたの?」
「2階のベランダ。先輩に捕まったけん、逃亡」
……うっかり2階ならいいかと思っちゃったじゃない。
もう体に染みついちゃってるんだろうなあ。
「なんか、気が晴れんと飛び降りたくならん?」
「わたしの場合は飛び込むだけどね」
「俺も川さえあれば飛び込むんじゃけど」
ベランダに立つ水島くんはサッシに頬杖をつき、「室内プールって鍵何個?」とよからぬことを思い付いたのが発露している。
教えてあげないけどね……。
右腕を枕にしたわたしを、水島くんは見つめてくる。凝視されているって感じがしなくて、小雨のそぼ降る音に包まれながら、甘やかされている気分になっていた。
だって……ほら。
「万代まで落ち込んでどーするかや」
水島くんの双眸は慈愛に満ちて、わたしの心をいたわる。
「……水島くんだって落ち込んでるじゃない」
「まあ、正直ちょっと……滅入っちょる」
わたしの目線よりも高い位置にいる水島くんの目は、自然と伏せられている。
「気付いてた?」
「なんとなく。みくるも瞬もハカセも、前と雰囲気変わった?ってくらい」
「わたしもそう……」
きらきら輝く世界が眩しかったのは、一瞬だった。目がくらんでいるあいだに、滲んで歪んだ世界になっちゃった。