水島くん、好きな人はいますか。
「なに、何事? どこのクラス?」
「わかんない……でも、」
すごく嫌な予感がすると思ったら、ふたつ離れたクラスから血相を変えて飛び出してきた男子が、隣のクラスのドアに手をかけ――勢いよくこちらを向いた。
「織笠! 瞬がっ……止めて!! 早く!」
大きく目を見開いたわたしは、気付けば駆け出していた。
「しゅ……っ、」
「みくるを悪く言うんじゃねえよ!!」
「おい瞬! 落ち着けって!」
「あいつらがお前らになんかしたか!? してねえだろ! 興味本位で好き勝手言いやがって!」
「――やめて瞬!」
瞬は大きく振りかぶった腕をぴたりと止めた。けれどわたしさえも睨んだから、大急ぎで瞬の前に立ちはだかる。
「どけ万代! 邪魔すんじゃねえ!」
「どいてほしかったら殴ればいいじゃない!」
意地でも退かないわたしを瞬は激しい剣幕で睨んでくる。
……怒ってるよね。傷付いてるよね。でも、
「これ以上はやめて。……瞬、お願い。こんなこと、瞬にしてほしくない」
C組の生徒は教室の四方に散っていて、真ん中の机や椅子の列は乱れていた。中心にいたのは瞬と、瞬を止めてくれた男子ふたり。そして瞬に殴られたのであろうひとりの男子と、巻き子ちゃんを含む3人の男女だった。
「……意味わかんね」
舌打ちをした瞬は顔を背けて乱暴に頭を掻き、近くにあった椅子を蹴飛ばした。胃を押し退けるようなするどく響いた音に、教室内が静まり返る。